材料の疲労損傷は,一般的に材料表面から進行すると言われています.しかし,107回を超える超長期間の繰返し負荷で生じる超高サイクル疲労は,材料の内部からき裂が発生しこれが進展することで破壊に至る現象であり,検知が困難なために予期せぬ事故を生じる恐れがあります.そこで,大型放射光施設SPring-8の超高倍率X線CTを利用し,超高サイクル疲労の損傷メカニズム解明を目指しています.
材料表面を起点とする一般的な疲労損傷と材料内部から進行する超高サイクル疲労の違いを明らかにするため,生じたき裂の周囲における真空圧力に着目します.表面き裂は大気に触れてき裂表面が酸化するのに対し,内部き裂は周囲を材料に囲まれているため真空環境下にあると考えることができます.そこで,真空環境下における表面き裂の進展挙動を捉えることで,超高サイクル疲労の損傷メカニズム解明に結び付けます.
一般的な疲労損傷は材料表面を起点とするため,表面の力学特性を改善することで材料の耐久性を大幅に向上させることができます.本研究室では,新しい表面改質技術として,高精度に制御された低圧縮荷重を材料表面に繰返し負荷するScanning Cyclic Press(SCP)法を開発しています.これにより,材料表層に堅固なアモルファス層やナノ微細化層を形成することができ,金属材料の疲労特性や耐食性向上技術としての展開が期待されます.
発電所やプラントなど重要施設が地震のような過大な繰返し負荷を受けた場合,設備や機器は目に見えないダメージが蓄積されている可能性があります.このような材料損傷を迅速かつ正確に検出し,後続の耐震尤度を合理的に評価する手法を構築することは,施設を安全に再稼働し,電力を安定して供給するために重要な課題です.本研究では,施設の配管に用いられる材料に対して地震による負荷を模擬した低サイクル疲労試験を行い,このときの表面性状の変化機構に基づいて疲労損傷評価手法を確立することを目指しています.
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は,優れた比強度,比剛性から航空宇宙分野を中心に適用が増大していますが,疲労損傷メカニズムが解明されていないために保守的な設計になっているのが現状です.本研究では,疲労破壊の起点として炭素繊維と母材樹脂の界面はく離に着目し,SPring-8での界面はく離検出,有限要素解析による界面はく離の強度評価,分子動力学法による炭素繊維と高分子のはく離シミュレーションに取り組んでいます.
適材適所の材料選択による機械構造物のマルチマテリアル化や製造プロセスの簡略化のため,異種材料を簡便に接合できる接着技術の重要性が高まっています.航空宇宙や自動車分野では構造用接着剤,電子デバイスや医療分野では粘着テープの需要が増大していますが,接着・粘着界面における強度評価手法は確率できていません.本研究では,接着・粘着の強度発現メカニズムを明らかにし,効果的な接合法の開発を目指しています.
機械製品の微細化が進むと,マクロスケールでは無視できていた表面力が顕在化し,構造物に予期せぬ変形が生じることがあります.特に,液体の表面張力は,MEMS分野におけるマイクロピラーの倒壊を生じうるため,大きな問題となっています.本研究では,材料表面が液体と触れることで生じる変形現象の力学モデルを構築し,機械加工では困難なナノスケールの構造物形成へと展開していくことを目指します.